善逸 かっこいい 小説
最新話のネタバレをしない!鬼滅の刃まとめブログ 鬼滅の刃のヘタレキャラ我妻善逸(あがつま ぜんいつ)。 今回は、そんな彼の超絶かっこいい名言を8つ紹介します! ヘタレなのにかっこいいのセリフなんてあるの? そう思われたのではないでしょうか。 本気になった善逸は、めちゃくちゃかっこいいんですよ! 「目を閉じるな!!ッ絶対助かる!助けるからなっ!!!」 今まで聞いた中でも一等悲痛な音が辺りに響き渡っている。それを鳴らしているのが、目の前にいるあの優しい音の彼だなんて、ちょっと信じられないな。伊之助は少し離れたところで、ただじっとこちらを見ていた。もう出会って5年の月日が流れたけれど、あいつが一番人として成長したんじゃない? 「たん、じ…ろ」「無理に喋らなくていいっ!!ッ今は止血することに専念してくれ!!」 炭治郎が必死に俺の患部を押さえる。だけど、もう手遅れなことを俺は理解していた。きっと、目の前の彼も頭の中ではわかっていただろう。何故こうなったのかというと、それは数刻前のことだ。俺たち鬼殺隊は無惨の根城を突き止め、柱を含む上級階級の隊士たちで突撃した。熱戦の末、俺たちはついに無惨を追い詰め、とどめを刺さんとしたとき、無惨が不穏な言葉を発した。 「よくも、やってくれたなッ!この異常者共め…、冥土の土産に一人道連れにしてくれるッ!!」 その言葉を聞いた瞬間、俺の腹を無惨の腕が貫通していた。 「ッガァ!」「善逸っ!!!」 瞬間、日光を浴びた無惨は灰となって消滅した。俺の腹には空洞が開き、俺はその場に倒れた。炭治郎が血相を変えてこちらに近づいてくる。それから必死に俺に呼びかけてくれるが、この怪我では助かる見込みはない。それをこの場にいる俺も炭治郎も伊之助もわかっているのだろう。だって、こんなにも叫び出しそうなほど苦しそうな音が鳴っているのだから。もうすぐ俺は、先に逝ってしまった大好きな爺ちゃんと、クズだけど尊敬していた兄貴の元へ逝ける。 「炭、治郎…、伊之助ッ、最後だか、ら聞いて…」「最後なんてッ言うな!!!」 炭治郎の目から伝った涙が俺の顔に落ちる。興奮状態でとても話を聞いてくれそうもない炭治郎に、伊之助が静かに諭した。 「炭治郎、ちゃんと聞け。じゃねぇと、後悔するぞ」「ッ!、…ごめん。聞かせてくれ、善逸。ッお前の言葉が、聞きたい」 幾分か炭治郎が落ち着いたおかげで、なんとか俺は彼らに言葉を告げる猶予が与えられた。 「あり、がと…。あの、ね、俺お前たちと、一緒にいら、れて、幸せだったよ…。最後に、見る顔が、お前らでっ、よかった。炭治郎、伊之助、月並みな、言葉しか、出てこない、んだけどさ…。俺と、出会ってくれてっ、あり、が…、と」 その言葉を言い切ると、俺は安心したのか、全身から力が抜けていくのを感じる。炭治郎が何か言っているけれど、俺の聴覚はもう上手く機能していなくて、それを聞き取ることはできなかった。俺は穏やかな気持ちのまま、重くなっていく目蓋を閉じ、それを再び開くことはなかった。         そんな感じで死んだはずの俺なんだけど、なんの因果かまたこの世に生を受けた。しかも俺の生まれ落ちた世界は、元の時代よりもずっと先の世界。周りには見たこともない物や、聞いたこともない音で溢れ返っていた。だけど、一番驚くべきことはそこじゃなくて、なんとこの世界の総人口の約8割が、なんらかの特異体質を持っているということだ。それは個性と呼ばれていて、だいたい4歳くらいまでに発現するらしい。そしてその個性を悪の道に使うものを敵(ヴィラン)、その敵に対抗し、人々を救うものをヒーローという。ヒーローはとてもカッコいいと思うし、俺は現在3歳なので、個性の発現が少し楽しみだったりする。俺は両親を知らない。この世界に生まれ落ちた俺は今世でも捨て子だった。だけど、俺はとある一家の家の前に捨てられていたらしく、その家の人が拾って、施設にやるのはかわいそうだとそのまま俺を養子として育ててくれたらしい。その家の夫妻には俺と同い年の子供が一人いるが、実の子と俺に優劣をつけることなく、一身に愛情を注いでくれた。俺はそんな夫妻と、夫妻の子である、ヒーローに憧れるまっすぐで優しい兄が大好きだ。 「善逸ー!一緒にオールマイトの動画みよ!」 声をかけられて振り向くと、そこには俺の兄である緑谷出久がいた。ちなみに今世でも俺の名前は善逸だけど、苗字は緑谷だ。 「うん!みるー!」 出久はヒーロー、特にオールマイトと呼ばれるヒーローが大好きだ。俺としては、ムキムキの筋肉達磨よりも、可愛い女の子の方が好きなんだけどね。それでも出久の申し出を断らないほどにはオールマイトも好きだけど。 『ハーハッハッハー!ハーハッハッハッハ!もう大丈夫、何故って?私が来た!』「ッ!ちょーかっこいい!僕も個性出たらこんな風になりたいなぁ!」 出久はこの動画を見るといつもそう言う。俺は出久に鬼がいないこの時代に危ない職業についてほしくない思いと、出久の夢を応援したい思いで心中複雑だ。でも夢を持つことはとても素敵なことだと思うから、俺は出久の背中を押す言葉を紡ぐ。 「出久なら絶対なれるよ!あ、今のうちにサインもらっとこうかなぁ、なーんて!」「何言ってるの!善逸もなるんだよ!」「え?」 その返しがくるとは予想していなくて、俺は驚きの声を上げた。 「僕と善逸二人でヒーローになって、事務所を立ち上げるの!そして兄弟でヒーロー!かっこいいだろ?」 彼はこれからも一緒にいられるのが当たり前であるかのように語る。信じて疑っていない、まっすぐとした瞳。まさかそんなこと言われるとは思っていなくて、感極まってしまったのかもしれない。俺の頬をポロリと一筋の涙が伝った。だって、嬉しくないはずがない。初めて知った、家族という温かい場所。そこに自分も居ていいと認められた気がした。出久は俺の顔を見て慌ててしまっていたけど、俺はどうしても伝えたくて、口を開く。 「うん…、すごくかっこいいッ!!」 俺の言葉を聞くと、出久は嬉しそうに笑った。そのときリビングから声が聞こえた。 「出久ー、善逸ー、ご飯よー」「「はーい!」」 俺たちは引子さん、いや母さんの声に元気よく返事をして、部屋を駆け出した。    順風満帆だった新しい暮らし、出久との良好な関係は、4歳の個性発現を機に、破局した。         4歳の誕生日を間近に控えた俺についに個性が発現した。俺も出久も発現した個性に興奮が抑えられなかった。 「すごいすごい!強化型の個性だぁ、かっこいい!!」 出久は俺の個性を手放しに褒めてくれて、なんだか照れ臭くて俺は頬を赤らめた。それから木を登ってみたり、高く飛び上がってみたりいろいろして遊んでいると、ふと自分の容姿の変化が気になった。個性の中には発動すると容姿が変わるものがある。一体どんな風になってるのかワクワクしながら鏡を覗いた俺は、自分の姿を見て固まった。二本のツノ、口から見え隠れしている牙、伸びた長い爪、開いた瞳孔。その姿はまさに、前世の鬼殺隊が命をかけて狩っていた鬼そのものだった。頭から冷水を浴びせられたような気分だった。前世で俺の腹を貫いた鬼舞辻無惨が、脳内で俺に「忘れるな」と言ったような気がしてゾッとした。俺は静かに個性を解除した。いきなり静かになった俺を出久は不思議そうな顔で見ている。 「どうしたの?」「もう、使わない。…この個性は二度と使わないッ!」 かつて沢山の鬼を屠ってきた俺が、兄弟子であるあいつの首さえ斬り落とした俺が、どうしてこの力を享受できようか、いやできるはずがない。あんな姿、二度と見たくない。この世界に存在しちゃいけないものなんだ。 「ど、どうして。かっこいいよ…?」 出久が不安そうに俺に問いかける。だけど、あの姿をかっこいいと言われて頭に血が上った俺は、そのまま駆け出して別の部屋に篭城した。その後、出久と母さんが心配そうに何度も声をかけてくれたが、その日はずっと扉の前で膝を抱えていた。   それから数日の月日が経ち、出久よりも誕生日の遅い俺に個性が発現したにもかかわらず、出久に個性が発現しないのはおかしいと感じた母さんに出久は病院へ連れて行かれた。そして、出久が無個性だと診断された。家に帰ってくるなり出久はずっとパソコンに向かってオールマイトの動画を見ていた。それから出久のすすり泣くような声と母さんの泣きながら謝罪する声を聞いた。どう声掛けをすればいいのかわからなかった俺はただ、部屋の前で立ち尽くしていた。やがて母さんが父さんに伝えてくると電話を持って部屋から出ていくと、立ち尽くしている俺の前に出久が歩いてきた。出久から嫉妬の音がする。 「善逸、僕無個性なんだってッ。ヒーローになれないかもしれない。善逸は個性があるのに、どうしてもう使わないとかいうの!?善逸なら、ヒーローになれるかもッしれないのに。…………ほんとはそんなに興味なかったんでしょ。ヒーローになりたいってッ、本気で思ってなかったんでしょっ!!」 出久の言葉が酷く心に突き刺さる。確かに、出久の言う通り俺はそれほどヒーローというものに憧れていたわけじゃない。出久に流されたところも多かったしね。でもさ、それでもちゃんと思ってたよ。出久と一緒にヒーローになりたいって俺も思ってたよ。 「…嘘つき」 それだけ呟いて、出久は俺の前から立ち去った。それから、出久とはまともな会話を一度もしていない。         出久との関係が修復されないまま、俺は小学生となった。しばらくすると出久から嫉妬の音は消えていたけれど、かつての兄弟子のように、また俺が介入することで出久が不幸になるかもしれないと思うと、怖くて声をかけることはできなかった。前世の記憶がひたすらに俺を臆病にする。それから家に居づらくなった俺は、日が落ちるまで公園や広場などで一人で鍛錬することが多くなった。雷の呼吸を今世でも使えるように始めたのだ。そしてその努力は実り、神速と火雷神はまだ体ができていない問題で使えないが、霹靂一閃は8連までできるようになった。今日はどこで鍛錬しようか、そう思案しているときに一つの音を耳が捉えた。あいつと同じ、『幸せの箱』に穴が開いている音だ。俺は吸い寄せられるようにその音の方へと向かった。もしかして、って思った。だけど、そこに居たのはあの兄弟子ではない別の少年だった。片目を覆う広い範囲に包帯が巻かれていて、髪色が左右で赤白なのが特徴的だった。この世界では髪色は個性のせいかいろんなものがあって、そのおかげで今回は生まれつき金髪だったこの髪も悪目立ちすることはなかった。 「ねぇ!君…」「?…何」「あ、俺はあが、いや緑谷善逸!君は?」「…轟焦凍」 話しかけたはいいものの、なんの算段もなかった俺は慌てて手持ちのものをガサガサ漁ったりして、そこで小腹が空いたときにと母さんに持たされていたクッキーを見つけて、取り出した。 「えっと、クッキー食べる?」 彼は驚いた顔をしたが、やがてコクンと頷いた。 それから黙々と二人でクッキーを食べて。食べ終わると、誰かに話を聞いてもらいたかったのか、彼はポツポツと話し出した。父親からの虐待紛いの訓練のこと、話すことを禁止された兄弟のこと、ついに精神を病んだ母親のこと。顔に巻かれた包帯は、母親から熱湯を浴びせられたものによるらしい。彼から語られたものは、幼子に強いるには、あまりに卑劣な境遇だった。可哀想だと思うと同時に、放って置けないと思った。 「ねえ!君のお父さんって今…」「焦凍ーーーーっ!!!」 尋ねようとしたその時、後ろから怒号が飛び、俺の声はかき消された。いきなりの大音量に耳が痛い。 「お父さん…」「え!?お父さんって!てことはこの人が…」 彼の呟きに俺は驚く。怒号の主であるこの体の節々から炎が吹き荒れ、何処かで放火が起こったらすぐさま犯人に仕立て上げられそうなこの人が、彼、焦凍くんの父親らしい。この人からは、強い欲望の音がした。まるで焦凍くんのことを道具とでも思っているような傲慢な音だ。 「こんなところで何油を売っている!!早く帰るぞ!!」「っあ」 焦凍くんの父親が焦凍くんの腕を強引に掴んで引っ張っていく。焦凍くんが俺の方を振り返った。パチリと目があった瞬間、俺は一歩踏み出して開いている彼の腕を握った。 「善逸くん…」「待ってください、あなたにこのまま焦凍くんを連れて行かせるわけにはいきません」 焦凍くんの父親は足を止めて、ギロリと俺を睨んだ。 「なんのつもりだ、誰だ君は」「俺は緑谷善逸。焦凍くんの友達です!」「…友達だと?」 俺の言葉に焦凍くんは驚いた顔をして、彼の父親は気難しい眉間の皺を深くした。一瞬沈黙して、辺りにピリッとした空気が広がる。まさに一触即発といった雰囲気だ。そんな空気の中、真っ先に口を開いたのは焦凍くんの父親だった。 「どういう事だ焦凍ぉぉぉ!!他の子供はお前とは違う世界だと言っているだろう!!友達なんて下らないものを作るなっ!!!!」 先程よりも近くで聞いた怒声に、頭がガンガンする。俺が一歩後ずさると、今までずっと大人しかった焦凍くんが声を上げた。 「下らなくなんかない!友達も、鍛え方もっ、お父さんは間違っている!!」 震える掌を懸命に握りしめて、緊張の汗を額にかきながらも、焦凍くんは言い切った。こんなにも怯えた音になっているのに、すごく勇気のある子だ。俺も頑張らないと。 「焦凍くんの言う通り、友達は尊いものです。決して下らなくなんかない。厳しすぎる訓練を課したり、兄弟と遊ぶ事を禁止するあなたの教育方針は間違っていると思います!」「部外者が人様の事情に口を挟むな!」「部外者じゃありません。焦凍くんの友達です!」「友達を作ることを許可した覚えはない!」 どちらも一歩も譲らない攻防戦、これでは埒が明かない。ふと、俺に一つの案が浮かんだ。けれど、それは今の俺にできるかどうか微妙なところだ。しかし、ここで焦凍くんを連れて行かれてしまっては、彼はまた地獄の日々を過ごすこととなる。それは駄目だ。いつかじゃ駄目なんだ、今やらないと彼を助けられない。俺は覚悟を決めて、一度深く深呼吸してから、口を開いた。 「では、こうしましょう。俺があなたに勝つことができたら、焦凍くんへの教育方針を改めてください」 俺の言葉を聞くと、彼は好戦的な笑みを浮かべた。 「随分と大きくでたな、小僧。まぁいい、_______一撃だ。俺に一撃を入れてみせろ。それができれば、条件をのもう。生憎、君のような子供が万に一つも一撃を与えられる程、俺は弱くないがな」 一撃、それなら俺にも勝算がある。焦凍くんのお父さんからは強者の音がする。おそらくかなり強い。だけど、俺は速さでなら負けないという自負があった。前世の己の唯一の取り柄である足腰だけは、生まれ変わってからもずっと鍛えてきた。それに俺の戦い方は一撃必殺の居合いの技だ。相手は油断しきっているし、あるいは。 「ここは人目がある。ついてこい」 歩き出した焦凍くんの父親の後をついて歩く。道すがら俺は知らずに顔が強張っていたのか、焦凍くんが不安そうな顔で俺を見つめていた。俺は少しでも彼の不安を取り除いて上げたくて、硬直している頬をなんとか少し上げて微笑んだ。 「ここだ」 一つの建物の前で立ち止まって、見上げるとそこには、立派な門構えの現世では珍しい古風な家があった。あまりの場違い感に緊張で心臓が口からまろび出そうになったけど、なんとか堪えて敷居を跨ぐ。 「ここらでいいだろう」 着いた場所は、これまた立派な道場だった。焦凍くんは何か嫌な記憶を思い出したのか、顔を歪めた。もう彼の顔が苦痛に歪むことのないように、ここで俺は勝たなくてはいけない。俺は壁に立て掛けてあった木刀を指差して言った。 「あれ、借りてもいいですか?」「構わん」 許可が得られたので、木刀を握って軽く振ってみる。日輪刀に比べるとやっぱり軽い。でも握る部分の太さが近いのか、手によく馴染んだ。 「もう始めていいか。早急に終わらせよう、俺は暇ではない」「わかりました」 木刀を腰辺りに左手で固定して、右手を添える。これで抜刀体勢は整った。 「いつでもいい。俺からは攻撃しない」 全神経を研ぎ澄ませ、目を閉じる。シィィィィィ。雷の呼吸特有の音がシンとした辺りにやけに響いて聞こえた。 『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 八連』 先手必勝とはよく言ったもので、俺はすぐさま攻撃を仕掛けた。しかし、 ダッ、ダンダンダンダンダンダンダンダンッ!!! 全ての攻撃がはじき返されてしまった。 「ッグゥ!」「もう終わりか?」 正直想定外だ。これは俺の読みが甘かったとしか言いようがない。俺の体はまだ幼い、いくら足腰を鍛えたとしても圧倒的に筋力不足だ。そのせいで、速さには分があるものの、攻撃が軽すぎるせいで全ていなされてしまう。これでは駄目だ、速さに特化した壱ノ型では、攻撃力が足りない。俺が他に使える型といえば、俺自身で作り上げたあの型しかない。攻撃力に特化した、速くて重い一撃を与える、兄弟子と肩を並べるために作った型。そして兄弟子の頸を斬った型。もう体が耐えられないからといって出し惜しみなんてしていられない。 「無駄な足掻きはやめろ」「善逸くん、もういいよ。もう大丈夫だから、無茶しないでっ!」 俺には今、為さねばならないことがある。泣きそうに歪んだ焦凍くんに俺は強気な笑みを見せた。 「無駄かどうかは、この型を見てから言ってください!!」 シィィィィィ。正真正銘、これがラストチャンス。この型に、今の俺の持てる全てを乗せて!!! 『雷の呼吸 漆ノ型 火雷神』 刹那、ドォン!!!という落雷のような音が辺りに鳴り響いた。閃光が収まった頃、息を整えながら焦凍くんの父親をみると、彼の服に確かに一太刀の傷がついていた。 「当たった…」「まさか、こんなことが…」 焦凍くんは驚きで目を見開いていて、彼の父親は放心していた。焦凍くんの父親はしばらく俯いていたかと思うと、いきなりガッと顔を上げて、ズンズンと俺の方に近づいてきた。俺の目の前まで来ると、その逞しい片腕でガッと俺の肩を掴んだ。 「君、一体なんの個性だ!」 あぁ、そうか。この人は俺のさっきの技を個性だと思っているのか。強い個性こそ全てだと信じているから、これが個性ではないとは想像もしないのだろう。 「俺は個性は使ってません」「何…?」「これは呼吸と呼ばれる特殊な技法です。個性じゃありません。個性というのはあくまで身体機能の一つにすぎないんです。それが全てなわけじゃない。だから、焦凍くんを、貴方の家族を上っ面の個性だけで見るのはやめてください」 焦凍くんの父親が中々返事をせずに、沈黙する。まさか子供の戯言と条件を反故にするつもりなのかと不安に思い始めると、やがて彼は口を開いた。 「約束は守る。…男に二言はない」 その言葉に安心して、一気に全身の力が抜けていくのを感じた。酷使した体がもう限界のようだ。俺はその場に崩れ落ちた。 「ッ!小僧!!」「善逸くん!!」 顔を青くして近寄ってくる親子二人を捉えたことを最後に、俺の視界は暗転した。    身の丈に合わない力を酷使し、気絶した俺は、日が落ちた頃に目を覚まし、その日はそのまま轟家に泊めてもらうこととなった。焦凍くんの父親改め炎司さんに抗議し一撃を入れたことは、焦凍くんを含む轟家の方から大いに感謝され、彼らは俺にとても良くしてくれた。炎司さんも正式に俺を友達認定してくれたようで、焦凍と呼び捨てにするよう言われた。俺も呼び捨てで良いと伝えると、焦凍はたいそう嬉しそうだった。俺の家の方には轟家の電話を借りて連絡した。友達の家に泊まると言うと、母さんは友達ができたことに歓喜して泣いていた。今世では今まで友達とか出来なかったもんなぁ、とちょっと申し訳ない気持ちになった。翌日、俺は自分の家に帰宅した。帰る際、轟家の玄関で炎司さんに引き止められて何故か、養子にならないか?と言われたが丁重にお断りした。焦凍とは今度また会う約束を交わした。     次の日家で見たヒーローニュースで、炎司さんがNo.2ヒーローということを知り、再び気絶した。